コラム「試合を決めたリケルメの魔法」
W杯も予選リーグを全て終了し、折り返し地点を迎えていますね。
久々の更新となる今回はコラムの紹介となります。
今回のW杯の主役の1人であるリケルメについてのコラムです。
是非多くの人に読んでほしいと思います。
「試合を決めたリケルメの魔法」
今大会のアルゼンチンを、リケルメ抜きに語ることはできない。
この絶滅危惧種に属する古典的プレーメーカーは、広い視野と多彩なアイデアで、危険なパスを次々に送り出す。
その一方で運動量は少なく、守備も当てにはならない。
前監督のビエルサが、リケルメに見向きもしなかったのにはそんな理由がある。
だからこそ、現監督のペケルマンの決断は注目を集めた。
守備を免除する代わりに、攻撃のすべてをリケルメに託す。
それこそが、ペケルマンが採った戦術だと言ってもいい。
ある意味で、懐古主義的なこの戦術が、成功するか否か。
今大会の注目点のひとつである。
グループCの初戦、リケルメのリケルメたる所以は、早くも発揮された。
24分、左サイドのFKから、リケルメが鋭いボールをニアサイドに送ると、ボールはゴール前にこぼれ、これをクレスポが難なく押し込む。
コートジボワールの攻勢に、さしものアルゼンチンもタジタジになっていた時間帯での、それだけに貴重な先制点だった。
さらに、この試合最大の見せ場となる2点目は38分。
ドリブルで持ち上がったリケルメは、左に流れてきたM・ロドリゲスに一度パス。
そしてリターンパスを受けると、コンマ何秒というわずかな、それでいて決定的なタメを作り、右足でスルーパスを放った。
際どいタイミングで飛び出してきたサビオラは、ジャスト・オンサイド。
きれいにDFラインと入れ替わると、GKの鼻先でボールを突き、ゴールへと流し込んだ。
スルーパスとは、DFとDFの間、いわゆる“門”を通すパスのことだが、このパスを出したリケルメと、受けたサビオラの間に、相手選手は4人。
伝家の宝刀は、実にふたつの門をぶち抜いたのである。
前半を終えて、アルゼンチンが2対0でリード。
スコアほどに、実力にも、チャンスの数にも、差があったわけではない。
だが、限られたチャンスを決定機にまで仕上げるという点で、アルゼンチンが、いや、リケルメが一枚上手だった。
後半に入ると、アルゼンチンはこのまま試合を終わらせてしまえとばかり、自陣からゆっくりとショートパスを回し、時間を費やすことを優先した。
だが、ここにスキが生まれた。コートジボワールは高い位置からプレスを強め、怒涛の反撃に転じると、ついにワールドカップ初ゴールを奪う。
82分、右サイドを抜け出したB・コネのクロスは逆サイドへ流れたが、そのボールをディンダンが拾うと、そのままドリブルでゴールライン際まで持ち込み、グラウンダーで再びクロス。
これをドログバが左足できれいに合わせて2対1とした。
その後も猛攻を仕掛けるコートジボワール。
だが、必死の猛攻も、百戦錬磨の伝統国相手に、前半失った2点は大きすぎた。
アルゼンチンの出場14回、優勝2回に対し、コートジボワールは初出場。
歴史や伝統では到底及ばないが、志向するサッカーは、よりモダンなものであった。
マンツーマン・ディフェンスをベースに、攻撃ではリケルメに頼るクラシカルなサッカーを展開するアルゼンチンに対し、コートジボワールには、攻守両面にモダンな組織的戦術が採り入れられていた。
それでいて、ブラック・アフリカン特有の爆発的なスピードには、前回大会のセネガル以上のインパクトがあった。
しかし、その一方で、決定的に欠けていたものもある。
サイドからドリブルで仕掛けられる選手はいた。
決定力抜群のセンターフォワードもいた。
だが、これらの多彩な武器を最大限に生かし、しっかりと攻撃の道筋を整理してくれるパサーがいなかった。
勝敗の差は、伝統と新興の差でも、クラシカルとモダンの差でもない。
アルゼンチンにはリケルメがいた。
この試合に限っては、それこそが勝敗を分けた最大の要因である。
参考文献 Number 浅田真樹=文
守備に全く参加せず、攻撃の時も全力疾走をほぼ全く出さないそのプレースタイルは「1970年代の司令塔」と評されます。
時代錯誤な司令塔が大会のMVPになる可能性は決して低くありません。
そんな時が来た時世界は「時代は繰り返される」という言葉を発することになるでしょう。